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執筆者の写真圓谷貴 Enya Takashi

ネットに顔を晒したらどうなるの?晒されたらどうすればいいの?

更新日:2019年9月11日

1 インターネットで素顔が晒される時代

現代社会におけるネットの普及と,デジタルカメラの普及はすさまじいですね。

個人が撮影した写真や動画が瞬く間に全国のインターネットユーザーに共有されてしまいます。


最近では,緊迫した自動車のあおり運転の現場がSNSサイトで共有され,あおり運転が社会問題としてフォーカスされることになりました。

また今年は,手持ちのカメラで撮影した動画を動画共有サービスへ投稿して情報を発信することを得意とする政党も現れましたね。


今まで見ることがなかったものを見ることが出来ることは非常に有意義なことだと思います。


一方で,これほど頻繁に,かつ手軽に,社会生活の模様がインターネットで配信されている状況ですから,自分でも知らない間に,自分の顔がネットで公開されてしまうのではないかという怖さを抱くのは,決して誇大妄想的とは言えないでしょう。


では,このような場合に,どうやって対抗するのか,どういった責任に問われるのか,ご説明したいと思います。



2 「素顔を配信しないで」と求める権利があるの? / 肖像権

昭和44年の最高裁判所判例で,私達は『承諾なくみだりに容ぼう等を撮影されない自由』を持っているということが認められました(最高裁判所大法廷判決昭和44年12月24日〈京都府学連事件〉)。


さらに,平成24年の最高裁判所判例で,『人の氏名,肖像等をみだりに利用されない権利』を持っているということが認められました( 最高裁判所第一小法廷判決平成24年2月2日〈ピンク・レディー事件〉)

 

 つまり,我々には,肖像権(肖像をみだりに使用されない権利)が権利があり,他人に,「私の肖像をみだりに使用しないでください」と言う権利があるんですね。




3 「素顔を配信しないで」と求める方法は? / 差し止め請求と損害賠償請求

例えば,あなたの顔写真を勝手に公開しているインターネットサイトがあるとします。

あなたは,その顔写真を勝手に公開している人に,「私の肖像をみだりに使用しないでください」とお願いすることができます。

その人が素直に従ってくれれば良いですが,あなたのお願いに応じなかった場合はどうすればいいでしょうか?


この場合は,裁判所に損害の回復を裁判所に求めることが出来ます。

具体的には,差止請求と損害賠償請求です。


差止請求は,例えば,肖像権を侵害する動画の配信の停止を求める裁判の手続です。

損害賠償請求は,肖像権を侵害されたことで被った精神的な苦痛や,経済的な損害を金銭で賠償するよう求める手続です。



4 「素顔を配信する」はどういう場合に違法になるの? / 受忍限度

「素顔を配信しないで」という権利があるといっても,実はこれは絶対的な権利ではありません。


「素顔を配信しないで」という権利を絶対的に認めるとなると,たとえばニュース報道で相当の問題が発生してしまいますね。

また,街中を歩いていて,防犯カメラに姿が映りこんでしまうとか,自分とは無関係の写真・動画に写りこんでしまう,ということは,社会通念に照らしてある程度はやむを得ないといえます。


つまり,「素顔を配信しないで」という権利を絶対的に保護すると,表現の自由や,創作の自由等,社会の発展を支える活力を奪うことにもなりかねないのです。


そこで,一定の場合は,素顔を配信することも許される(違法にならない)ことになります。


それは例えば,次の場合です。


①公的な領域で撮影し,又は撮影した情報を公表する場合で,社会通念上受任するべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものではないとき,


②公的領域で撮影し,又は撮影した情報を公表する場合で,社会通念上受任すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがないとき,


③被撮影者の私的領域で撮影,又は撮影した情報公表する場合で,撮影情報が公共の利害に関する情報であるとき


これをもう少し大きく言えば,


①公的な領域での撮影は,社会通念上受任するべき限度を超えた侮辱を与え,または,平穏な生活を害するものであれば,認められない。


②私的な領域での撮影は,公共の利害に関するものでなければ,認められない。


ということになります。


更に,どういった場合に上記の「受任の限度を超える」と判断されるか,という点は,


・被撮影者の社会的地位,

・撮影された被撮影者の活動内容

・撮影の場所

・撮影の目的

・撮影の態様

・撮影の必要性


等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決することになります。




5 最後に

以上,今回は肖像権についてご説明いたしました。

肖像権は法律に明記されていない権利であり,裁判所の判例と法学者の学説の集積により形作られていった権利です。


したがって,今後も肖像権の権利の内容や,法効果は変わっていくでしょう。


最初に述べた,テクノロジーの発展により,肖像権の議論は新しい局面に来ているようにも思われ,これから裁判所や学会での議論が活発になっていくのではないでしょうか。


テクノロジーの発展した現代では,肖像権の問題はいよいよその議論の重みを増していくのではないかと思います。



弁護士 圓谷貴

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